いまや日本の主たる成人病となった、『糖尿病』。
「尿が甘くなる」、というのはなんだか聞いててゾッとしませんよね。
血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、腎不全に動脈硬化や脳梗塞などの合併症を引き起こしたり、目の網膜がやられてしまったりするといいます。
生活習慣病としての面があり、日本人の食生活の変化を直接に反映しているような病気なんでしょうね。
いつだったか、糖尿病で腎不全を患ってしまった方のお話を聞いた記憶がありますが、透析を欠かしてはいけないというのは大変なことのようです。
日々の生活にも無理ができなくなってしまうらしいです。
尿まで甘くなってしまうような、栄養分にあふれた恵まれた環境にいる私たちですが、
昔から生き物がそんな環境の中で生きられたなんてことはなかったハズです。
われらが祖先も含め、生き物の世界は弱肉強食、そして生物は必ずしも自分に最適とはいえない過酷な環境で生き抜かねばならない、という状況にさらされていました。
そんな環境では「栄養をうまく使う」というのは、とっても重要な機能だったはずです。
栄養を体中の筋肉や臓器で多量に、それも急に使わなければならない状態におちいったとき
―たとえば敵対している組のモンの襲撃を受け、急いで逃げなければならないとき、
失敗がバレて、上司にどうやって言い訳するか、脳をフル回転して事態を乗り切らねばならないとき―(どんな状況だ…)
下手すれば致命的なコトになりかねません…
それまでため込んでいた栄養分を急いで血管に流しだして、血液に乗せて身体中の細胞に運んでやらねばならないのです。
(脳みそといのははなかなかにグルメな臓器でして、「ブドウ糖」、つまりはお砂糖がその口(?)によく合います。タンパク質とか脂肪はあんまりのーせんきゅー♪なんです。)
従って、血液中の糖の濃度(血糖値)を上げる命令方法を身体はいくつか持っています。
「お腹が減ったなー、栄養たりねえよ」と思えば脳は、
「アドレナリン」や「糖質コルチコイド」、「グルカゴン」などといったホルモンの放出を指令し、その命令を受けて栄養を貯蔵しておいた肝臓の細胞などは血液中にブドウ糖を流しだすのです。
この命令系統が複数あることのため、いくつかの方法がダメになっても、他のものが機能していれば血糖値の上昇はうまく機能するというわけです。
(「アドレナリン」の分泌がうまくいかなくなっても、「グルカゴン」を分泌すれば血糖値は上昇する、というわけ)
ただし!生き物は「うまく使う」には重点を置いているのですが、「うまくため込む」のにはそこまで力をいれていません。
別にそんなに急に血液中にある糖分を吸収しなくても、放出するのとはちがって、死につながるようなことなんてなさそうですね。
これが問題なんです。
実は、血糖値を下げる、つまり糖分を吸収するように命令するホルモンは一種類しかありません。
「インスリン」という、タンパク質でできたホルモンです。
「あー、お腹いっぱい。栄養過多だよ」となって、血糖値を下げるために命令として使うホルモンはこれしかないです。
インスリンが血液中に放出されたのを感知した肝臓はせっせと血液中の糖分を取り込み、血糖値を下げるのです。
よって、何かの理由でこのホルモンの作用がダメになってしまうと、糖を栄養として取り込むことができなくなってしまうのです。
これが「糖尿病」というわけです。
食べ物を食べて消化管で分解され、ブドウ糖になって血液中に放出されても、インスリンがないので糖は吸収されず血糖値はなかなか下がりません。
いくら食べても栄養にはならず、体重は減少しのどがとても渇きます。
また血糖値の慢性的な上昇は、栄養としてというよりはむしろ毒としてはたらいてしまい、色々な病状をあらわしてしまうのです。
血糖値は、すい臓の「ランゲルハンス島」(細胞のカタマリ、という意味であって実際に島じゃないです)という細胞群によって調節されます。
(糖尿病の治療のための移植手術である「膵島移植手術」の“島”の文字は、この「ランゲルハンス島」という名前のためです)
このランゲルハンス島という細胞群は、実際にインスリンとグルカゴンを分泌する重要な組織であることがわかっています。
つまり、「腹減った!」と脳が感じれば、脳はすい臓ランゲルハンス島に「グルカゴンを分泌しろ!」と指令し、その結果肝臓などから糖が血液中に放たれ、血糖値は上がります。
一方、「お腹いっぱい!」となれば、今度はランゲルハンス島にインスリンの分泌命令を出し、結果肝臓での糖の吸収が行われ、血糖値が下がるわけです。
このランゲルハンス島のインスリン分泌が、生活習慣や長い間の高血糖などのダメージを受けると、うまくはたらなくなってしまい、血糖値調節能力が失われてしまい、糖尿病になるのです。
そんな現代生活の悪い面が凝縮されてしまったような糖尿病ですが、ずーっと昔から認知され、研究はなされていたようです。
19世紀末には、犬からすい臓を切除すると糖尿病になることがわかりました。
また、ランゲルハンスという人が前述のランゲルハンス島を発見し、
すい臓にある細胞のカタマリが何か特別な物質を分泌していることを見つけていたのですが、
これが糖尿病に関係があるらしい、ということがわかってきました。
ここにいたり、ある二人のノーベル賞科学者にかかわる、面白い話がでてきます。
あの「トリビアの泉」でも紹介されたので知っている方も多いでしょう。なんと「83へぇ」です!結構高し。
バンティングとマクラウドという二人の科学者の話です。
左の人がバンティングさんです。 カナダの大学で生理学を教えていた(教授ではなかったみたい)のですが、 しかし、このマクラウド教授は、 「自分が夏休みの間、助手を一人つけて場所を貸してやるから、それでいいでしょ。ご勝手に」 と、助手のベストという人と、10匹の犬と研究場所を提供しました。 さてかくして、ベストとバンティングは四苦八苦しつつも膵臓から血糖値をさげる成分を この成分を糖尿病の犬に注射すると、犬が元気になったのです!
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さて、夏休みを終えてマクラウドが帰ってきたのですが、実験結果が正しいことを知るやいなや、
「この物質をインスリンという名前にしよう」と提案、(バンティングの提案した名前をラテン語読みしただけ)、その量産方法を作り上げ、実際に糖尿病で瀕死だった少年の命を救ったということです。
そして、バンティングとマクラウドは1923年のノーベル医学生理学賞を受賞することになります。
・・・いいのかそれで、と思いませんか?
確かにマクラウドの元でインスリンは見つけられたのですが、実際の発見者はバンティングとベストなのでは?
ついでに、マクラウドがしたことって、場所と犬と助手を提供したことと、インスリンの名前を読みかえたこと、それに量産方法を作ったことだけなのでは?(その量産方法が評価された、という意見もあるようです)
実際、バンティングは「インスリンはマクラウドとではなく、ベストと見つけたものだ」として、賞金の半分をベストに譲ったということです。
研究にもいろいろ、ですね。研究者も人間なのですよ〜どろどろ
バンティングとマクラウド(とベスト)はインスリンの抽出に成功はしましたが、それがいったいどんな物質でできているかは解明できませんでした。
それを明らかにしたのはフレデリック・サンガーという人です。
サンガーはインスリンがタンパク質であることを明らかにしました。 タンパク質は何個かのアミノ酸が一直線につながったもので、 サンガーはインスリンが、 タンパク質のアミノ酸配列を決定する方法の開発、 このサンガーのすごいところは、この業績のみにとどまらなかった、ということです。 サンガーはなおも研究を続け、今度はDNAの塩基配列を決定する方法をも編み出してしまったのです。 今でも、この方法はDNA研究において必ず使われる(実際僕も昨日やりました)もので、 サンガーはこのDNA塩基配列決定法の開発の業績で、1980年のノーベル化学賞を受賞します。 二度ノーベル賞を受賞したのは、マリー・キュリー(物理学賞二回)、ジョン・バーディン(物理学賞二回)、 サンガーは極度に照れ屋だったので共同研究をせず、 |
このヒモになったアミノ酸がどのように絡まりあい、インスリンとしての機能をなしているかが解明され、その構造が原子レベルで解明されました。
それがトップのイメージです。
かくして、糖尿病は原子のレベルまで解明されるにいたったわけです。
しかし、糖尿病は未だ現代病として問題になっているのですが…医療としてはまだまだ前途多難な問題なのですね。
参考記事・文献・Web
『ノーベル賞の100年』自然科学三賞でたどる科学史/馬場錬成著
折出けんいちのウェブサイトD-connection トリビアの泉で沐浴
Wikipedia(key ward; Frederick Sanger, Frederick Banting, insulin)
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